MORIOKA

遠くに行きたい気持ちがふくれてしまって、
ぱんと弾ける前に、
週末を使ってひとり旅。

月曜日の夕方に打ち合わせがあるので、
それまでに戻ってくればいいので、
日曜日は泊まってゆっくりふらふら。

こんなことができるのは、
フリーの醍醐味であり、
大人になってよかったことのひとつ。

さて、どこに行こうかな。

なんとなく西方向へ行くよりは、
北方向へ。

仙台? う〜ん…。
金沢もいいけれど、
富山はどうかな?
でも、電車で1本ではいけないなぁ。
なんて地図を見ながら楽しく迷って、
結局、決めたのが盛岡。

東北新幹線の「はやぶさ」に乗ってみたかったのもある。

盛岡に行くのは2回目。

以前、角館に桜の季節に行ったことがあって、
そのとき半日ほど立ち寄った。

川が流れ、緑がきれいな町だと思った。

「釜定」という南部鉄器のお店に行って、
ペンダントとオブジェを買った。

で、駅前で冷麺を食べたのが想い出。

今回は、とくに目的もないけれど、
ふらふらと街歩きをしたいなと、
本当にそれだけ。

小さな旅館に電話して、
宿をとって、
新幹線のチケットをとる。

朝8時過ぎの新幹線。「はやぶさ1号」
仙台を過ぎ、あっという間に盛岡に着く。
東京を出たときは、快晴だったのに、
盛岡は生憎の雨だった。

10時半すぎ。

まぁ、時間はあるし、
ということで、コーヒーでも飲もうと
ふらふら。

駅構内の本屋さんに寄る。
手描きのポップがいい味を出していて、
さらに地元、盛岡や岩手県にゆかりの
書物が充実していた。
そして震災関係の本も。

盛岡は被害が少なかったというけれど、
だけど同じ県の中に壊滅的な被害を受けた地域があって、
やはり、その心の傷というものは計り知れないものが、
あるんだろうなぁと思う。

床屋さんの窓ガラスにも
「復興の狼煙」のポスターが貼ってあった。

雨が上がる気配がないので、
仕方なく、折りたたみの傘を買う。

駅の外に出る。
駅前はロータリーになっているのだけれど、
横断歩道がなく、
地下道で渡るようになっていた。

なんとなく知らない街で、
地下道に入るというのは、
怖いなぁと思ってしまう。
夜は特に嫌かも。

そんなことを考えつつ、
地下道を抜け、北上川の流れる橋を渡り、
さらに中津川にかかる橋を渡る。

日曜日は休日のお店も多いのか、
街の中がとても静か。
人影もまばら。

しばらく街を歩いたあと、
開いていた喫茶店に入る。

小さな入り口の奥は長細く、
木の椅子とテーブルが並ぶ。

壁はもとは白だったのだろうけれど、
薄いベージュっぽく変色していて、
それがまた落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

いちばん奥の壁には時計がかかっている。
流れる曲はシャンソン
時計の音がけっこう大きく、
カチカチと時間を刻む。

カプチーノ
コンビーフとチーズのホットサンドを頼む。

昼時だけれど、
お客さんはわたしだけ。

本を読んで1時間ぐらい過ごす。

こんな風に過ごしていると、
自分が東京にいるような気もしてくる。

どこにいても
していることは、
あまり変わらない。

街をふらふら歩いて、
写真を撮ったり。

でも、やはり日曜日お休みのお店も多い。
そして、びっくりするくらい人が歩いていない。

旅館のチェックインまでには、
まだ時間があったので、
宮沢賢治ゆかりの「光原社」に行く。

温かみのある焼き物や漆、ガラスの食器、
染め物などを見る。

かごが欲しいなと思ったけれど、
結構な値段で、
ちょっとあきらめた。

敷地内には、
宮沢賢治関連の資料を集めた建物もあった。
宮沢賢治の時代の盛岡は、
どんな街だったのだろうと思う。

歩き疲れたので、
再びコーヒータイム。
乾燥しているので、
アイスクリームも注文。
優しい味のバニラ。
コーヒーをかけてアフォガートに。
ぱふぱふのウエハースがついていたのも、
なんだか懐かしくて嬉しかった。

また本を読んで過ごす。

お土産にクッキーやらジャムを買う。

日も暮れたので、
旅館に向かう。

ガラッと扉を開けると、
おばさんが出てきて、
「泊まるの?」と言われる。
あれ、電話で予約したんだけど…と思いながらも、
部屋にあっさり案内される。

小さな4畳くらいの部屋。
もう布団が敷いてあって、
部屋の隅に机と椅子と、
小さな鏡台。

このまま腰を落ち着けちゃうと、
もう絶対に寝ちゃうと思い、
再び街へ。

駅ビル内の和菓子屋さんが充実していて、
ちょっと迷う。
自分のおやつ用やお土産用にいくつか買う。

盛岡を紹介していた小さな雑誌に載っていた、
民芸調の定食屋さんに行く。

やはりお客さんはひとり。

盛岡の地ビールを飲む。
生姜焼きとカキフライの盛り合わせの定食。

ボリュームもあって美味しかった。

食後はコーヒーでまったり。

帰りはまだ9時ぐらいだというのに、
ほとんど人気がなくて、
ちょっと怖い。寂しい気持ちになる。

部屋に戻って、
寝ちゃう前にお風呂に入る。

本を読もうと思ったけれど、
眠気が勝って、
気がついたら寝ていた。

翌朝は7時くらいに起きる。

やはり東京よりはちょっと寒い。
顔を洗う水も冷たい。

朝食をとりに食堂へ。

カナダからきたという老夫婦と同席する。
ふたりとも研究者で、
奥さんが盛岡大学で何かの共同研究をしているための滞在とか。
奥さんが大学に行っている間、
ダンナさんは観光しているらしい。

盛岡の前に北海道を旅行し、
そのあとは沖縄に行くらしい。
なんとも羨ましい。

奥さんが、朝ごはんの残ったおかずを
パック詰めしてもらうのに
「Obento」という言葉を使っていて、
ちょっとびっくりした。

朝食はさんまの塩焼き、
卵焼き、
大根と厚揚げとにんじんの煮物、
数の子の和え物
ごはん
お味噌汁と正統派な日本の朝ごはん。

しっかり2膳も食べてしまった。

コーヒーをもらって、
ゆっくりチェックアウトまでの時間を過ごす。

仕事のメールを何本か。
帰りの新幹線の切符もネットもとる。
本当に便利な世の中だ。

雑誌などで見て、
行ってみたかった福田パンに行く。
コッペパンに好きなフィリングを塗ってもらうシステム。
盛岡のソウルフードとも呼ばれているらしい。

朝の通勤、通学の時間からは外れていたので、
意外と空いていた。

もちろん注文はあんバター。
けっこう大きくてボリュームがあるのだけど、
ジャムバターもいっしょに買う。

パンの袋をぶらぶらふりながら、
以前にも行った、南部鉄器のお店まで歩いて行く。
ペンダントを買う。
あと、友人の誕生日祝いに
オイルパンと洋鍋をセットにして送ってもらう。
東京からもってきたカードもいっしょに入れてもらう。
仕事関係の人のお土産に鳥のオーナメントを買う。

なんとなく達成感。

ちょうどお昼近かったので、
近所で瓶入りのコーヒー牛乳を買って、
川のそばの公園であんバターのコッペパンを食べる。
おいしい。コーヒー牛乳もおいしい。

風は冷たいけれど、
心地よい感じで、
しばらく川を見ながら、
ベンチでぼけっと音楽を聴いていた。

午後の新幹線をとっていたので、
ゆっくりと駅に戻る。


帰りの新幹線も窓際。

心地よい疲れでうとうと。

ときどき目を瞑り、
本を読みながら、
音楽を聴いて過ごす。

日常だけど、日常じゃない。
そんなボーダレスな感じが心地よい旅でした。