Memento mori

その道は何度も通ったはずなのに気がつかなかった。

広い道まで歩こうと、
その前を通りすぎようとしたとき、
「記帳はこちらに」という文字が見えた。
「?」と思ったけど通り過ぎた。
通路の入り口のところには男性が立っていて、
その敷地が地下鉄のものであることを示すプレートの
ようなものがあった。

通り過ぎてしばらく歩いて、
ふとその場所で10年くらい前に、
地下鉄の脱線事故があったことを思い出した。
高校生の男のコや数人が犠牲になったはず。

家に帰ってネットで調べたら、
やはり慰霊碑が建立されていることがわかった。

事故があったのは3月だから、
1年中ああやって、誰かが立って
見守っているのか。

日々「死」と向き合う。
彼の中で「死」はどういう意味があり、
どういう形をしているのだろうか?

夏は死を想う季節。
お盆や終戦の日があるというだけでなく、
強い日差しと濃い緑、
突き抜けるような青い空、湧き上がる雲…。
生々しいほどの生命力を感じるこの季節は、
かえって死の影を濃く映し出す。

生い茂る夏草が風に揺れる。
その下には誰かの、何かの死がある。

夏は死を想う。