京都から福岡  

京都の出張が決まって、
おもいがけず金曜日。
次の日から福岡に行くので、
泊まるか帰るか悩む。
せっかく京都に行くのに…。
美味しもの食べたいし。
というわけで、羽田からの飛行機を伊丹からに変えて、
安いビジネスホテルを探す。

遊ぶ気満々だったのだけど、
広告がらみの案件だったので、
担当もいっしょに。
ちぇっ、残念。
時間があれば会いたいひとや、
行きたい場所もあったのに。

当日は3時からの取材なので、
お昼出発でのんびり。
ホテルに荷物を置きたいので、
他の人たちよりも少し早く出る。

お弁当を買って新幹線。

風景を見ているだけで楽しい。
熱海のあたりできらきら光る海が一瞬だけ見えた。

京都駅手前で急に眠気に襲われ、
降りるときに少し慌てた。

新幹線を降りた途端、
むあっとした暑さで、
くらっとくる。

荷物をホテルに置いて、
取材先の会社に。

早め、早めと動いていたら、
約束の時間よりも30分も早く着いてしまった。

駅の近くの喫茶店にでも入っていようと思ったら、
駅前に何にもない!! まじですか〜〜!
炎天下フラフラ歩いて限界になり、
時間よりも早いけれどロビーで待たせてもらうことにする。

取材はさくさく。
約2時間で終了してしまった。

ちょっと時間があったので、
「行きたいところがあるんだけど」と
お許しをもらって、一乗寺まで。

恵文社とか、寄りたい場所は他にもあったけれど、
今回はフィンランドの雑貨を取り扱うお店「S」へ。

以前、オンラインで商品を買って送ってもらったのに、
不在が続いて受け取れず、
戻ってしまって再度送ってもらうということがあって、
おわびもかねて。

お土産渡して、
おしゃべりして、
買い物も。

小さいけれど、とてもセンスのよいお店だった。
またゆっくり来たいなぁと思う。

帰りはバスで中心地まで戻る。

夜ごはんは八坂神社の近くの
カウンター割烹。

十五夜が近いので、
お月見だんごが飾ってあり、
最初のつきだしで、出してくれた。

お料理は品数が多く、
どれも美味しくて満足。

帰りは四条通りを、
ふらふら歩く。
「なんか甘いもの食べたいね」ってことで、
コーヒー屋さんでパフェ。

生クリーム、コーヒーゼリー、チョコレートの
苦甘の絶妙な組み合わせにやられる。

んまっ。

飲みに行きたい気持ちもあったけれど、
我慢して、ホテルに帰る。

翌朝は少し早起きして、
ベタだけれどイノダに行って朝食。

昔、取材したときに、
常連のお客さんはいつも位置が決まっているという、
話があったのだけど、
おじいさんばかりが座っているテーブルがあって、
ここが定位置なのかな? と思う。
新聞を広げ、コーヒーを飲み、
ゆっくりと朝の時間を過ごすご隠居さんたち。

いいなぁ、こんなふうに暮らしたい。

駅まで行って伊丹空港駅のバスに乗る。

1時間弱で着く。

取材もあったので、
久しぶりにパンプスだったのだけど、
足が限界に…。
ビーサン生活のツケが…。

福岡はの便は、
なんとプロペラ。
そしてゲートから歩いて飛行機まで行き、
タラップを上る。
久々だなぁ〜〜〜。

福岡ではIちゃんと待ち合わせ。
もともとIちゃんはJALで、わたしはANAなので、
どこか行くときは空港待ち合わせが多い。

違う土地の空港で待ち合わせるのは、
けっこう楽しい。

高速バスの時間まで時間をつぶす。
小腹が空いたのでホットドッグとジンジャーエール

サンダルは売っていなかった。

長距離バスで甘木というところまで行く。
今年の初めに亡くなった、
Oさんの故郷。
ここにお墓がある。

年取ったら故郷に帰ると言っていた。
よく故郷の自慢をしていたし、
何かあるごとに帰っていて、
県人会とか地元との交流を大切にしていた。

高速バスの停留所からはタクシーで。
川が流れ、田んぼが広がり、
古い町並みが残る。
とてもキレイな場所だった。

Iちゃんと「田舎者ってバカにして悪かったね」
「でも、Oちゃんも悪いよね。こんなステキな場所なら、
ちゃんとプレゼンしなきゃ」
「やっぱり詰めが甘いよな」と
亡くなったひとのことを言いたい放題。

温泉のある旅館に荷物を置き、
町を散策。

春は桜が見事だという。

彼の通っていた中学校の近くを通る。
自転車に乗った中学生が、
通りすぎざまに「こんにちはぁ!」と元気に挨拶。
ちょっとびっくりしたけれど、
「こんにちは〜」とこちらも返す。
そのあと、果物を売っていたおばあさんに、
「よかったら食べて」と切った梨をもらった。
冷たくて水っぽくてとても美味しかった。

続けざまの温かな触れあいに、
「Oちゃんの差し金じゃないの? 自分の故郷を良くみせようと」
「あはは、あるかもね〜」とまたもや毒舌。

旅館には露天風呂があって、
少し苔が生えていたりいい感じ。

日の高いうちからお湯に入り、
ごろごろごろ。
畳に寝っ転がると近くを流れる川の音がした。

お湯は少しぬるめでやわらかく、
長く入っていてものぼせない。

お料理も美味しかった。

次の日も朝からひと風呂。
朝の光に透明なお湯がきらきらしていてキレイ。

朝食後、またお風呂。
お風呂に読みかけの本を持って、
だらだらと過ごす。

ぽとんと音がして、
何かと思ったら木の天井からやもりが落ちてきた。
しばらくやもりを眺めていたが、
ふっと目を離した瞬間にいなくなってしまった。

チェックアウトの時間が遅めだったので、
けっこうのんびりできた。

まずはOさんのお墓参りに。
お寺に行ったものの、誰もいない様子。
仕方がないので、お墓を探す。
彼の名字のお墓があったので、
「ここかしら?」と思うものの、
彼の名前が入っていない。
「違っている?」「まだ納骨していない?」
「名前をまだ彫っていないのかな」
「やっぱり詰めが甘い!」などど
一抹の不安を残しつつお参り。

焼き物が好きだった彼が
ひいきにしていたお店で買ったぐい吞みに、
お酒を注いでお供えする。

言いたいことはいっぱいあるけれど、
やっぱり突然いなくなってしまったことが悲しい。

お墓参りを終えて、
彼の実家へ。

お姉さんがわざわざ来てくれていた。

年をとったご両親に挨拶をして、
いろいろな話をする。
「20年来、いろいろお世話になっていました」と
言ったら、お母さんが
「20年ですか。大学から東京だったから、
私たちよりも長い間いっしょだったのですね」と言われ、
ああ、そうなんだなぁ。そんなに長い間だったんだなと思い、
そして、息子を失った年をとったご両親の思いに涙が出た。

面倒みがよくて、
温かなひと。
いつもお酒飲んで、
床で寝ていたり。
うんちくばかり語って、
しつこくて、
すぐひとに説教をする…。
おまけに仕事できないし。
(誰もが言う、二度と仕事はしたくない)

でも、いいひと。
Iちゃんとも何度も繰り返して言う。
恋人でもなく、友人とも違う、家族でもないひとのために、
なぜ、ここまで来たんだろうね。
でも、彼じゃなかったら来なかったと思う。

ご両親と話していて、
さっきお墓参りをしたお墓が、
ご先祖のお墓で、彼のお骨は納骨堂にあるという…。
ぎゃふん〜!

なので、再度お姉さんとお母さんといっしょに、
お参りに。お墓に供えてきたぐい吞みも取りに行き、
あらためて納骨堂へ。

「もう、やっぱりOちゃんは詰めが甘い」と、
彼のせいにして、ふたりで文句を言う。

お姉さんがクルマでバス停まで送ってくれるという。
お言葉に甘えながら、
車中では、彼の子供のときの話をいろいろ聞く。
お姉さんは、今も彼を「ちゃん」づけで呼んでいて、
温かな家庭だったんだなぁと思う。

彼が通っていた高校の前を通ってくれた。

バス停でお別れして、
博多・天神方面のバスに乗る。

がくっと睡魔に襲われ、
バスターミナルに着くまでほとんど寝ていた。

ホテルにチェックインして、
天神の街を散策。

本当に足が限界だったので、
スニーカーを買う。

Iちゃんは買い物魂に火がついたらしく、
服を買っている。

そしてやっぱり本屋は欠かせない。

まだ読みかけの本があるというのに、
一冊買って、
さらに小さな鳥のチャームを買う。

夜はIちゃんおすすめのもつ鍋。
んまっ。

でも、飲みにもいかずホテルに帰って、
ごろごろしていた。

月曜日も快晴。

朝食を食べて、チェックアウトまで
ゆっくり過ごすつもりが、
少しだけ仕事。

薬院のほうに行ってみる。
センスのよい小さなセレクトショップ
カフェが多い。

あまり詳しく知らないし、
ガイドブックなども持っていないので、
お店の人に「どこか他におすすめのお店ありますか?」という
わらしべ長者的発想でお店巡り。

ある洋服屋さんでは、
貝でできた鳥のブローチを買う。

小さな雑貨屋さんでは、
陶器の鳥のオブジェとネックレスを買う。

あるセレクトショップでは久留米絣のストールと、
小さな器を買う。

荷物もいっぱいになったところで、
カフェでひと休み。

そのあとも家具屋さんや洋服屋さんをのぞいて、
ホテルに戻る。

荷物をピックアップして
地下鉄で空港へ。

Iちゃんともここでお別れ。
「また東京で」

搭乗時間まで時間があったので、
お土産を買ったり、本を読んで過ごす。

帰りの便は窓際。

離陸したときに、雲の合間に月が見えた。

夕暮れに染まる雲海を眺める。
飛行機に乗ってよかったと思うのは、
雲の上からの風景を眺めらえること。

そして都市の灯りの美しさ。

もちろん、電気の問題はいろいろあるけれど、
人間が創り出した美しいもののひとつであることは確か。

いつも夜の便は羽田に降りるときの風景が見たくて、
窓際をとる。

羽田に降りると、すっかり日も暮れ、
高く満月が光っていた。

旅の終わり。
心地よい疲れとともに。
バスに揺られて帰る。