泣いたり笑ったり

わたしは、
この文章を自分のセンチメンタリズムを
満足させるために書いているのかもしれない。

でも、今の気持ちを文章にしたいと思う。
いつかはこの気持ちをきっと忘れてしまうと思うから。
悲しいけれど、きっと忘れて自分の中で美化してしまうと思う。
だから、今の今の気持ちを、
今しかない書けない言葉で書いておきたい。



その夜、地下鉄の階段をおりていったら、
Kくんがいて、電車を待つ間と駅に着くまで、
他愛のない話しをした。

その中でKくんが「Oさんが休んでいるらしいですよ」と
言い「へぇ。なんか顔色悪かったし、
結構やせてたよね」みたいな話をした。

でもその時間には、もう彼は亡くなっていた。

まったく知らなかった。

話を聞いたのは、次の日の昼のこと。

いっしょに仕事をしているKさんから電話があって、
「Oさんが亡くなった」と教えてくれた。
「詳しいことはまだわからないんだけど、
膵臓がんだったらしいよ…。とりあえず知らせなきゃと思って」
と教えてくれた。

うそでしょ?  頭がぐるぐるしながらも、
Iちゃんに電話をかける。
もうわかっていたみたいで
「電話かけなきゃって思ってた。
まだ詳しくはいろいろ決まってないから、
また連絡する」と言われた。

編集部にいって、打ち合わせするはずだった、
Fさんのところにいったら、泣きそうな彼女に黙ってうなずかれて、
それを見たら、あとはもう涙があふれてきて止まらなくなった。
末期ガンだったこと。病気がわかったのは12月で、
それからたった2か月…。ほとんどの人が知らなかったらしい。
病気のことを知っていて、最後に会いにいったYさんや、
Iくんにも話を聞く。

CちゃんやFちゃんに連絡をする。

仕事をしようにも、なんだか落ち着かなくって、外に出る。

Fちゃんが電話をくれてお茶をしようということになって、
いろいろな話をする。

いろいろな思い出。

ダメなひとだった。
でも愛すべきダメなひとだった。
愛嬌があって、みんなから
「しょうがないなぁ」と思われながら、
愛されていた。

お酒を飲んで編集部にもどってきて、
からんだり、説教したり、
床で寝ちゃってたり、いないと思ったら、
階段の踊り場で寝ていたこともあった。
すぐにうんちくをたれる。
さらにちょっと不潔。
セクハラまがいのことを言ったりしたり。
ギャラはなかなか払わないし、
仕事も遅いし、抜けていることもいっぱい。
大ざっぱでがさつで、男くさいくせに、
ちょっと小心者で弱気なところがあったり。

モデルの中学生や高校生にも、
「もうOちゃんは〜〜」って、
あきれられていた。

でも面倒見がよくて、相談事にもよく乗っていたし、
誰よりも親身だった。
なぜかモデルを見える目はあった。

九州男児。自分の故郷を愛していて、
県人会の集まりや学生のときの集まりにも
よく顔を出していたみたいだ。
いつか福岡に帰ると言っていた。


本当によくケンカした。
編集者とライターの立場で、
あんなに言いたいこと言い合ってケンカするなんて、
もうできないと思う。

彼だから言えたし、
きっとわたしも甘えていた。

いっぱいごはんやお酒をおごってもらった。

彼が異動になってからは1回、
お寿司を食べにいって、
仕事の話が聞きたいって言われて、
お茶を飲んだだけ。

会えば「元気〜?」とか声をかけたり、
ちょっとは立ち話をしたけれど、
こんなに突然、いなくなるんて考えもしなかった。
本当に考えもしなかった。

お茶から戻るとYちゃんから電話があって、
Nくんも呼び出して、みんなで話す。

ダメエピソード満載。

Yちゃんが「わたしなんかギャラ払って〜って言ったら、
逆ギレされたよ」とか。

みんなで「やっぱり仕事だけはしたくないよね」と言う。

みんながそれぞれのエピソードを語りながら、泣き笑い。

本当にダメなヤツ。でも憎めない愛すべきひと。

結局、その日はつかいものにならず帰る。

翌日も現実感のないまま過ごす。

結局、原稿がどんどん遅れてしまった。
担当のCちゃんには本当に申し訳なかった。

原稿が書き終わったのは次の日午前中。
Cちゃんのところに原稿をおいて、
バッグとか黒のストッキングとか、
そういうものを買いに行く。

いかにいつもちゃんとしていないか。

帰って着替えて、お通夜にいく。

Yちゃんと駅で待ち合わせる。

電車の中でK社の広報チームの方々に会う。

メーカーのひとにも愛されていた。
楽しいひとですねっていつも言われてた。

斎場のある駅に着くと喪服のひとがたくさんいて、
斎場への道にはすでに列ができていた。

昔いっしょに仕事をしていたカメラマンやスタイリスト、
モデル、ヘア&メークのひとなど、懐かしいいひとたちに会う。
こんな形では会いたくなかった。

1時間くらい並んで、現実感のないままお焼香をし、
またきた道を戻り、長い列に知った顔をみつけては、
短い言葉をかわす。

弔問に訪れたひとは、1,000人以上だったらしい。

駅のところまで行くとさっき会ったOくんがいて、
「どうしたの?」と聞いたら、
「うん、ちょっと、やっぱりちゃんと顔みたいと思って…」
と言う。Oくんもよく頭にきて、怒っていたっけ。
本当にみんな迷惑したんだから。
わかってんの? また泣き笑い。

斎場に戻るOくんと別れ
駅前の焼き鳥屋さんで、Yちゃんとちょっと飲む。

そのあと約束があったので銀座にいく。
一日をしめっぽく終わりたくなかったので、
ちょっと用事があったことに救われる。

そして今日。

最後のお別れ。

渋谷でHちゃんと待ちあわせて、
斎場にに向かう。

Fちゃんとも合流して、またお焼香をして、
出棺までの時間を過ごす。

また懐かしい顔に会ったり。

棺にお花を入れて、棺を見送る。
みんな泣いていた。
誰もが本当に心から悲しんでいる。

Hちゃん、式の手伝いをしていたIちゃんとともに、
斎場をあとにしてちょっとお茶しようということになる。

入ったお店に彼と同期のひとたちが集まっていた。

またいろいろなエピソードを話して、
笑ったり、泣いたり。

何時の間にか夕方近くなっていた。

まだ信じられない気持ちでいっぱい。
なんで? という思い。

悲しいしややっぱり悔しい。

あんな時代はもう来ない。
編集者もライターも、他のスタッフもみんな若くて、
モデルの子たちとも、今考えみるとそんなに
年も離れていなかった。

仕事だけど仕事じゃなくて、
部活とか文化祭みたいな感じ。

笑ったり、怒ったり、怒られたり、
悩んだり、落ち込んだり
本当に楽しかったね。

楽しかった。

彼氏でも家族でもないけれど、
こんなにも喪失感が大きい。
大切な仲間だった。

さようなら。
さようなら。

でも、またいつかケンカしようね。