瀬戸内 旅の記録

春を感じさせる光の中、
飛行機は高度を下げ、旋回する。
窓の下には、瀬戸内の島々。
イヤフォンから届くのはEagles 『Desperado』

日本はきれいだなと思う。

大きく深呼吸をして外に出る。

丸亀にある丸亀市猪熊弦一郎現代美術館へ行く。

目的は杉本博司の「アートの起源/建築」

先にきていたIちゃんと合流。

天井が高く、たくさんの光が降り注ぐ建物。
ひとりのアーティストを約1年間取り上げる大胆な企画。

豊かだなぁと思う。

カフェでひと休み。

Iちゃんと疲れたねと言う。

もともとは、二人の共通の知り合いでもあるOさんが亡くなったことが、
自分たちの中でぽっかりと大きな穴になっていて、
どこか行きたいというのがあったのだけど…。

こんなことが起きて、
いま、行くべきか? 少し悩んだ。
なんとなく「東京から逃げた」ような気持ちもあるし、
でも、もう本当にきつかったというのもある。
だから、やっぱり「逃げた」のかなぁと思う。
(タクシーなどに乗っていて、東京から来たというと
「逃げてきたの?」と言われるとちくっと痛む。
でもこの痛みはちゃんと受け止めなきゃね)

おいしいカレーとジュースとコーヒーを飲んで、
ぼうっとする。

ランチタイムなのに、
あまりひとはいなく、
広い空間に光だけが差し込む。
ソファに体をあずける。

いろいろなことを考えながら、
でも、考えるのを止めたり。

ソファーに座っていても、
揺れている感じはやっぱりあって、
作品を見ているときも、
壁によっかかっていないと、
うまく立てない。
暗いところがちょっと怖い。

ふぅ、深呼吸。

静かな美術館の時間は、
自分を取り戻すのに少し役に立った気がする。

丸亀から高松に行く。
電車に揺られ、街並みを眺める。

ホテルに荷物を置く。

肩や首がばりばりだったので、
マッサージ屋さんを探して、90分ほど。

眠ることはできなかったけれど、
かなり軽くなった。感謝。

ぶらりと街歩きをしたあと、
またカフェでぼうっとして、
夜は高松の名物の骨付鳥を食べる。

2日目。

早起きして、高松の港から豊島を経由して、
まず犬島へ。
小さな小さな島。
廃墟となった銅の精錬所を
アートスペースとして活用したもの。
昨年の瀬戸内芸術祭でも訪れたけれど、
高い煙突のある風景に心がつかまれる。
風や空気そのものの特性を利用した、
空調のシステムや、
汚水を利用した植物の栽培など、
「循環」という視点の環境への取り組みにも、
考えさせれる部分が多い。

カフェでおいしいたこめし、
金柑のあったかい飲み物を飲む。

光があることが嬉しく思う。

そして船に乗ってまた豊島へ。

内藤礼西沢立衛による、新しくできた豊島美術館と、
クリスチャン・ボルタンスキーの心臓音のアーカイヴ。

小さな島だけど移動はなかなか大変。

バスでは5分くらいだからと
甘くみていたら、急な坂道で、
さらに雨まで降ってきて、ぜいぜい…。

新しくできた豊島美術館

曲面のやわらかな白い空間。
ぽっかりと天に空いた穴からは、
雨が落ちてくる。
水はたまり、水滴はころころと転がっていく。

何時間も水と空を見ていたくなる。

今度はもっとゆっくり過ごしたいなぁと思う。

美術館のカフェで食べたいちごがすごくおいしかった。
豊島産のいちご。

あとでこの島が産廃風評被害に遭い、
みかんやこのいちごも「豊島産」というだけで、
まったく売れなかったという時代があったということを知る。

帰りの船を待っているとき、
友人のIちゃんがいちごを買おうとしたら、
売り切れだったのだけど、
農家のひとがわざわざ取りにいってくれた。

島と島の間は船で移動し、
島内はバスを利用。
東京と違って1本逃すと大変なので、
スケジュールはけっこう綿密に立てる。

それでもぽかんと空く時間はあって、
おしゃべりしたり、お茶を飲んだり、
本を読んだり。

本は地震以来、やっぱり集中して読めなくて、
2冊持っていったのに、いまだにまだ1冊目の最初の部分。

本を読むのも、心が穏やかじゃないとできないものなんだなと思う。

2日目の夜は日曜日だったため、
高松市内といえども休んでいるお店が多い。
繁華街に行けばなんとかなるかなと思って、
タクシーに乗る。雨も降って意外に寒い。

「暖かいものが食べたい」という話をしていたら、
タクシーの運転手さんがラーメンとおでんのお店を教えてくれて、
そこに行くことにする。途中でメーターを切ってくれて、
いいひとだなと思う。

お店はかなりディープな感じで、
一瞬ひるんだけれど、
温かいおでんがおいしかった。

3日目

あいにくの雨。
そして寒い。

船で直島に渡る。

直島は比較的大きな島だからと思って、
あまり下調べをしなかったのだけど、
バスの時間や経路などを間違えたりして、
なんだかぐるぐるしてしまう…。
ホテルについたら、別の棟だったり…。

ちょっと疲れたので、
とりあえず荷物を運んでもらうことにして、
ラウンジでひと休みして、
ランチを食べに行って
仕切り直し。ふぅ。

李禹煥美術館、家プロジェクトと見る。

瀬戸内芸術祭のときに見れなかった、
「南寺」に行く。

暗闇の中に座る。
だんだん目が慣れてきて、
光が見えてくる。
ちょっと眠くなる。

外に出てほっと息をつく。

光があること、澄んだ空気、
外へどこまでも広がっていることに
安心する。

もし夏に見ていたら、
どんな感想だったのだろうか?

大竹伸朗が手掛けた、
港近くの直島銭湯に行く。

大きなお風呂に体がほどけていく感じがする。

大きなお風呂はいいね〜。
温かいお湯はいいね〜。

ぽかぽかに温まって、
ホテルに戻る。

部屋で少しぼうっとして、
夕食はフレンチレストラン。

最後くらいは少し贅沢に。

お酒も飲んで、おなかいっぱいになって、
部屋に戻って、ベッドに倒れ込む。
そのまま2時間くらい寝ていた。

顔を洗って、歯を磨いて、
また寝る。

4日目

朝。昨日の雨はあがり、
青空が見える。

お風呂に入りすっきり。

まだ寝ているIちゃんを起こさないように
散歩に出かける。

ホテルの屋上に出ると、小高い丘につながっていて、
島と海が見下ろせる。

少し寒い。

光が広がっていくと、
海の色が変わっていく。

朝食を食べ、
ホテルの館内にある美術館の作品を見る。

チェックアウトして港に行き、
フェリーで高松へ。

寒いけれどデッキに出てみると、
たくさんのかもめが船の回りを舞っていた。

飛ぶというよりも、
ふわりふわりと浮いている感じ。
くくりつけた風船みたいに、
つかず離れず、ふわりふわりとついてくる。

すれ違う貨物船の回りにもかもめが飛んでいて、
なぜだろうと不思議に思う。

昼過ぎに高松港に着く。

あまり歩き回る気もないので、
結局、バスの時間までお茶をする。

今回の旅は、お茶の時間が多すぎ。

バスに乗って空港に着き、
お土産を少し買う。

実家にお菓子やうどんを送ってもらうも、
「関東地方はいつ着くかはわからない」と言われる。

小腹が空いてうどんを食べる。

よく考えたら、今回、初うどん。

おいしかった。

飛行機は定刻通りに離陸し、
東京へ。

冬のように寒い。

一度部屋に戻って、少し休む。

週が明けて仕事が動き出し、
それとともにいろいろな問題が出てくる。

はっきり言えばついていけない。
体も心も。
ちょっと待って〜と思う。

なんとか絶対的にやるべきことだけを終えて帰る。

旅の終わり。

余震は頻繁に起こり、
地震酔いもなかなか直らないけれど、
とりあえず寝る。

旅に行ったことはよいことか、
悪いことかはわからないけれど、
でも、つかの間でも体と心がほぐれたのは事実。

だからそれだけを感謝したい。